【顎の不調セルフチェック】もしかして顎関節症?ご家庭でできる簡単な確認方法と初期対処法
「食事のときに、なんとなく顎が疲れる」
「あくびをしたら、顎からカクッと音がした」
「口が少し開きにくい気がする…」
顎に関するこうした違和感を、一度は経験したことがあるのではないでしょうか。多くの方が「たいしたことはない」と、つい見過ごしてしまいがちな小さなサイン。しかし、それはもしかしたら「顎関節症(がくかんせつしょう)」の兆候であるということも考えられます。そのためこの記事では、ご自宅で試せるセルフチェックのポイントと、違和感を覚えたときにすぐ実践できる応急処置について、お口の専門家である歯科医師が、要点をまとめてご説明します。

目次
【セルフチェックで顎の状態を確認】
まずは、ご自身の顎のコンディションが今どうなっているか、確認してみましょう。次のリストで、ご自身に当てはまるものを数えてみてください。
- □ 口を大きく開けたとき、人差し指から薬指までの指3本が縦にスムーズに入らない。
- □ 口の開閉時に、耳の前あたりで「カクカク」「ジャリジャリ」といった音がする。
- □ 咀嚼時や大開口時に、顎に痛みを感じる。
- □ 顎がだるい、疲れやすいと感じることがよくある。
- □ 鏡の前で口をまっすぐ開け閉めしたとき、顎が左右に揺れたり、ずれたりする。
- □ 原因のわからない頭痛や肩こり、首の痛みに悩んでいる。
いかがでしたか?こうしたサインは、顎関節症の初期症状かもしれません。次の項目では、顎関節症そのものについて解説します。
顎関節症の基礎知識 – 誰にでも起こりうるトラブルです
先のセルフチェックで思い当たる点があった方も、過度に心配する必要はありません。顎関節症は特に若年層から中年層にかけて多く見られ、女性は男性に比べて有病率が高いという特徴がありますが、その多くは適切なセルフケアや体を傷つけない「保存療法」によって改善することがわかっています。
一般に「顎関節症」と呼ばれるものは、単一の病状を示すものではなく、これからお話しする3つの代表的な症状を含む、複合的な状態の総称です。
- 顎の関節や筋肉の痛み
食べ物を噛んだり話したりする際に、耳の付け根周辺や頬、こめかみといった部位に痛みを感じるのが特徴です。 - 開口範囲の制限(開口障害)
口の開く量が減ったり、開ける際に顎が左右にぶれたりする状態です。正常な状態の目安として、指3本(約4〜5cm)が縦にスムーズに入りますが、これには個人差があります。 - 顎の関節が鳴る音(関節雑音)
口を動かした際に「カクッ」というはっきりした音が聞こえたり、「シャリシャリ」と何かが擦れるような音がしたりする状態です。
これらの症状が、いくつか重なって現れるケースも珍しくありません。

なぜ顎関節症になるの?- 考えられる主な原因
顎関節症の原因は一つに特定できないことが多く、複数の要因が積み重なって発症するという見方が一般的です。特に最近の報告では、次のような要因との関連が示唆されています。
- TCH(Tooth Contacting Habit:歯列接触癖)
意識していないとき、私たちの上下の歯は触れ合っていないのが自然な状態です。接触するのは、食事で物を噛む時や言葉を発する瞬間など、ごく短い時間に限られます。この自然な状態に反して、気づかないうちに歯を接触させ続けてしまうのがTCH(歯列接触癖)です。この癖は、顎周辺の筋肉を緊張させ続けるため、症状の悪化因子になりうると考えられています。 - 精神的なストレス
心的なストレスは、体全体の筋肉を緊張させるため、症状を悪化させる一因になりうると指摘されています。特に夜間の歯ぎしりや無意識の食いしばりを誘発し、顎関節への負荷を増やす可能性があります。 - 生活習慣や癖
頬杖、うつぶせ寝、猫背といった姿勢、楽器演奏(特に管楽器)、片方の歯ばかりで噛む癖なども、顎への負担を増やす要因です。 - 噛み合わせの不調
以前は噛み合わせの異常が主な原因と考えられていましたが、今日では、顎関節症を引き起こす多様な要因の中の一つとして考えられています。
すぐに試せる!顎の不調を和げる初期対処法
顎に違和感を覚えたら、悪化させないために以下のセルフケアを試してみましょう。
- 顎を休ませる
硬い食べ物(フランスパン、おせんべい、ナッツなど)を避ける、ガムのように、同じ咀嚼(そしゃく)運動を長く続けることは控えましょう。あくびなどで大きく口を開けすぎないことも大切です。 - 優しくマッサージする
痛む場所(こめかみ、耳の前、頬など)を、気持ちいいと感じる程度の強さで、指先で優しく圧をかけ、円を描きながら筋肉をほぐしてみてください。 - 姿勢や癖に気づく工夫
パソコンのモニターなど、目につく場所に「歯を離す」と書いたメモを貼り、TCHに気づくきっかけを作るのがおすすめです。頬杖をつかない、普段の体の使い方や姿勢にも気を配ってみましょう。 - 顎周りを温める
蒸しタオルやホットパックなどで顎の筋肉を温めると、血行が促進されて緊張が和らぎ、痛みの緩和につながります。(ただし、急な強い痛みや腫れがある場合は冷やしてください。)


症状が続く場合は専門家へ相談を
これらのセルフケアは、あくまで症状を和らげるための「初期対処法」です。もし、以下のような状況であれば、自己判断で済ませずに歯科医院を受診しましょう。
- セルフケアを続けても症状が改善しない
- 痛みがだんだん強くなっている
- 急に口が開かなくなった
歯科医院では、問診や触診、顎の動きの検査、場合によってはレントゲン検査なども実施し、なぜ症状が出ているのか、その原因を専門的に見極めます。原因や症状に合わせた適切な治療法(マウスピースを用いたスプリント療法や理学療法など)を提案してもらえるため、一人で悩み続けるよりも早く改善に向かうことができます。
まとめ
顎の不調は、多くの人が経験する身近な症状です。ですが、そのままにしておくと症状が進行してしまい、日々の生活を送る上で、不便を感じる場面も出てきます。
- 最初に、セルフチェックを通してご自身のコンディションを把握すること。
- 次に、負担を減らすための初期対処法を試してみること。
- そして、症状が改善しない場合は、我慢しすぎず、専門家である歯科医師の判断を仰ぐこと。
ご自身の顎の健康を守る上で、まず大切なのは、ご自身の顎が発しているサインに耳を傾けることから始まります。この記事が、そのきっかけになれば幸いです。
歯並びのお悩み、当院にご相談ください
当院では、顎関節症をはじめとする顎の不調に関するご相談も承っております。お口の専門家として、患者様一人ひとりのお悩みに丁寧に耳を傾け、最適な解決策を一緒に探していきます。
精密な診断を基に、様々な治療の選択肢をご提案することが可能です。例えば、噛み合わせに起因する問題が考えられる場合には、3年連続で「ブルーダイヤモンドプロバイダー」として表彰された実績豊富な歯科医師が、「インビザライン」や「Smartee(スマーティー)」といったマウスピース矯正によるアプローチをご提案することもできます。部分矯正から全顎矯正まで幅広く対応しており、極力抜歯を避ける先進的な治療法も導入しております。
また、当院はホワイトエッセンスに加盟しているため、矯正治療と並行して歯を白くするホワイトニングも可能です。お口全体の健康と美しさをトータルでサポートいたしますので、どんな些細なことでもお気軽にご相談ください。
参考文献
- Manfredini D, et al. J Oral Rehabil. 2017. “Dental occlusion, body posture and temporomandibular disorders: where we are now and where we are heading”
- Macrì M, et al. Front Public Health 2022. “Epidemiology of temporomandibular disorders: a systematic review”
- Jayaraman S, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2024. “Occlusal splints for treating temporomandibular disorders”
- Kapos FP, et al. J Oral Rehabil. 2020. “Biopsychosocial aspects in the management of temporomandibular disorders”
- NIDCR. “TMJ Disorders: Self-care and Treatment”
- 日本顎関節学会『顎関節症治療の指針 2020』